自然哲学の諸問題についてのドイツ王女へのオイラーの手紙

 

   レオンハルト・オイラー

  (1707-1783)

 

 

 

 

 

 序−”オイラーの手紙”とは?

 

 レオンハルト(またはレオナード)・オイラーについては、本HPの

  Power of Physics 

 で既に紹介済ですので、流体力学に興味がない方でも一読いただければ幸いです。

 

 さて、最も多産な科学者といわれた天才オイラーは50代になっても日々忙しく研究に没頭していました。(既に片方の目は見えなくなっていたようです)

 ある日、レオポルド3世であるアルンハルト・デッサウ公から娘に何かわかりやすい科学教育をしてもらえないかと依頼されます。そこでオイラーはこれを大変な名誉として受け止め、公の要望に答えるべく公女宛の書簡の形で当時の様々な科学の問題とその原理を次々に解説して見事にその責務を果たしていきます。

 その中には有名なデカルトはもちろんニュートン、ウォルフのモナド論やその他の科学者、当時はそう呼ばず自然哲学者や哲学者(形而上学者)の間に流布していたオカルト論についても言及しています。

 

 手紙は、1760年4月19日、手紙1から始まって1762年5月12日、手紙119に最後の1つを加えた膨大な量で、421ページもあります。 

(また英語訳には書いた時期も内容も異なるものがもう一つ存在します。調査中。)

 

 それはそうと、オイラーは1年余に渡り手紙を執筆しています。それだけでもオイラーがいかに科学入門編の執筆に力を入れていたのかがわかります。というより、これはむしろ入門編という範疇を超えています。では一体何故でしょうか?当時既にヨーロッパには大学が存在し、さまざまな研究が行われていましたが、それは王族、貴族を中心としたごく限られた裕福な人々のためのものでした。一般の人々はまだオカルトと呼ばれる迷信の中で生きていたのであり、科学とは程遠い生活をしていたのでした。

 オイラーは大きさや距離の概念に始まり、音楽の音階について、万有引力の説明にしても、数式をほぼ使用していません。そうすることで、”いつか”、この書簡が庶民に対し科学の啓蒙を果たすことを、オイラーは期待して執筆に力を入れたのではないでしょうか?

 

 しかしここで一つ疑問が生じます。彼の書簡が印刷され書籍として出版されたのは事実です。しかも当時の一般市民の間で多く読まれたとウェブ上で同じことが繰り返し紹介されています。しかし、ファラデーが生きた18世紀末〜19世紀でも、まだ書物は大変高価で且つ貴重なものであり、1冊作るのにも莫大な費用がかかるものでした。(ここで、なぜファラデーの名前を出したかは彼の伝記を呼んだ方ならハハーン!と思うことでしょう。)

 あの当時、一般庶民が書物を手にする機会はほぼなく、庶民が教育を受ける制度などなかったため文字を読める人も少なかったのです。まして400ページを超える内容の書物など論外でしょう。手紙1のみでさえ読んで理解できたかどうか怪しいものです。

 やはり”いつか”なのです。

 よって、科学教育のために上流階級や学者の間で購入(または製作依頼)したり、回し読みされたことは十分あったはずですので、そういう意味ではヨーロッパ中に広まったといえるでしょう。内容の吟味は常に必要です。

 

 オイラーが期待した”いつか”の日は、日本では約150年後の20世紀になってようやく実現しました。手紙の内容は今日では当たり前であったり、誤っていたりすることもありますが、当時の最高の知識をもったオイラーの生き生きとした解説は、数式を使用していないために少々くどいところもありますが、あたかも目の前で講義をしていただいているような錯覚に陥ることがあります。

 そんなすばらしい手紙−18世紀の科学入門編−をご紹介したいと思います。

 

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一覧

手紙1.−大きさまたは広がりについて

手紙2.−速度について

手紙3.−音とその速度について

手紙4.−協和音と不協和音について
手紙5.−ユニゾンとオクターブについて

手紙6.−他のコンソナンス(協和音)について

手紙7.−ハープシコードの12音について

手紙8.−繊細な音楽に由来する喜びについて

手紙9.−空気の圧縮について

手紙10.−空気の希薄化と弾性

手紙11−空気の重さ

手紙12−大気と気圧計について
手紙13・−空気銃と火薬での空気の圧縮について
手紙14.−あらゆる物体の加熱と冷却により生じる効果、そしてパイロメーター(高温計)とサーモメーター(温度計)について
手紙15.−寒暖により大気に生じる変化
手紙16.−高山と明らかにされた極度の深部で感じられる冷気
手紙17.−光について.デカルトとニュートンの仮

手紙18.−放射の仮説に伴う困難
手紙19.−提案された光線と光の性質に関するさまざまな仮説
手紙20.−光の伝播について
手紙21.−天体の距離および太陽とその光線の性質についての余談
手紙22.−光り輝く物体の性質の解明と発光する不透明な物体とそれらの違い
手紙23.−どのようにして不透明な物体が目に見えるのか.提案された光の反射に関するニュートンの仮説
手紙24.−ニュートンの仮説の考察と反論
手紙25.−光を発する不透明な物体が見えるようになる法則のさまざまな説明

手紙26同じテーマの続き

手紙27結果:照らされた不透明な物体の明るさと色

手紙28−特に色の性質

手紙29−光線の送出に関連する物体の透明性

手紙30−光線の伝達、透明な媒体、それらの屈折について

手紙31−さまざまな色の光線の屈折
手紙32−天の青色について
手紙33−離れた発光点から進む光線について、そして視角について
手紙34−判断が視覚に与える助力ついて
手紙35−光学に関するある現象の説明
手紙36−影について

手紙37−反射光学、さらに平面鏡からの光線の反射について

手紙38−凸面と凹面鏡からの光線の反射.天日採りレンズ

手紙39−屈折光学について

手紙40−続き.天日採りレンズとそれらの焦点について

手紙41−視覚と目の構造について
手紙42−続き.目の構造に見出される不思議
手紙43−さらに続き.動物の目と人工の目またはカメラ・オブスキュラの間の驚くべき相違点
手紙44−目の構造に見出される完全性
手紙45−物体の一般的な特性として考えられる重さに関して
手紙46−続き。重力の特性について
手紙47−重力に関する言葉とそれらの真の意味
手紙48−重力に由来する地球の球体形へのある反論に答える
手紙49−地球の重力の真の方向と作用

手紙50−地球の中心からの距離とある領域に関するさまざまな引力の作用
手紙51−月の重力
手紙52−ニュートンによる万有引力の発見
手紙53−続き。天体の相互の引力について
手紙54−万有引力に関する哲学者のさまざまな意見.引力主義者
手紙55−天体が相互に引かれる力について.
手紙56−同じテーマの続き
手紙57−同じ問題の続き
手紙58−天体の運動.万有引力の法則によりそれを決定する方法
手紙59−宇宙の体系
手紙60−同じテーマの続き
手紙61−相互の引力に起因する惑星の運動の小さな不規則性
手紙62−海の干満の解説
手紙63−海の干満に関する哲学者のさまざまな意見
手紙64−月の引力による干満の解説
手紙65−同じ問題の続き
手紙66−同じ問題の続き
手紙67−同じ問題の続き
手紙68−万有引力に関する議論のより特別な説明
手紙69−物体の性質と本質;または物体の広がり、流動性、不可入性
手紙70−物体の不可入性
手紙71−実際と見かけの物体の運動について.
手紙72−均等な加速と減速運動について
手紙73−運動と静止の重要な法則.このテーマについての哲学者の議論
手紙74−物体の慣性について:力について.
手紙75−物体の状態に生じるであろう変化
手紙76−ヴォルフのモナド(単子)仮説
手紙77−力の起源と性質
手紙78−同じテーマ.最小作用の原理
手紙79−なにか他の種類の力があるのか?という質問について
手紙80−精神の本質について
手紙81−魂と肉体の結合について