自然哲学の諸問題についてのドイツ王女へのオイラーの手紙

   殿下に進呈するという名誉をいただいた音の説明は、音楽の弦、鐘、及び他の鳴り響く物が攪拌され、われわれの耳へ激しい振動を送出することにより振動という運動を可能にする、空気に関するさらに特別な熟考へと私を導く。

 

空気とはなにか?と直に問われるだろう。

それは一見したところ具体的な物質として見えない。

 

われわれはその中に感知できる物体がないことに気づいているので、

周囲の空間は何ものも含まないように見える。

 

われわれは、何もないと感じる。

 

われわれは、少しの妨害も感じることなくその中で散歩したり、

四肢をそれぞれ動かすことができる。

 

しかし、あなたは、なにか抵抗を感じるまで、

さらに早い動作により引き起こされる風の流れを感じるまで、

活発にあなたの手を動かしさえすればよい。

 

さて、風は空気が動いていることに他ならない。

 

そして、それが非常に驚くべき効果を生み出す能力があることを知ると、

空気は具体的な物質で、結果として物体である、

ということがどうして疑えるのか?

 

というのは、物体と物質という言葉は同義であるからだ。

 

物体は固体と流体という大きな種類に分けられる。

空気が流体という種類に当てはまるのは明らかである。

それは水に共通するさまざまな特徴である。

ましてそれは大変薄く微細である。

 

空気は水よりもおおよそ800倍も薄く希薄であることを、実験が突き止めた。

 

さらに、もし空気が水よりも800倍も密度を高くしたものなら、

 他の流体のように同じ密度を持つだろう。

 

他の流体と区別される空気の主な特徴は、圧縮され、

 またはより小さな空間に減少されるという性質である。

 

 

これは、次の実験により証明される。

 

 金属またはガラスの管A,B,C,D(Fig.2)を例に取ると、

端のA,Bを閉じ、そして管の空洞をしっかりふさぐピストンPを押し込んだ一方を開く。

 

ピストンを内部へ押し込む場合、

それが中間Eに至ると、最初に空洞ABCDを占めていた空気は半分に減少し、

その結果2倍の密度になる。

 

もしピストンがBEの間の中間Fまでさらに中に押されれば、

空気は最初の空間より4倍も小さく減少されるだろう。

 

その上、もしあなたがピストンをGへ向かって動かし続ければ、

BGBFの半分、または全長BDの1/8となるので、

初めは管の全空洞中に広がっていた同じ空気が8倍も小さく圧縮されるだろう。

 

それを800倍小さく圧縮するためには、

同じ方法を続けることであなたは通常の空気より800倍の密度の空気を手に入れるだろう。

 

そのとき、それは水同様の密度となるだろうし、他の実験により証明することは容易だろう。

 

それ故に、空気は、圧縮可能な、

言い換えればより小さな空間に縮小される流動性のある物質であるように見える。

 

また、この観点から空気は水とは全く異なる。

 

というのは、管ABCD を後者の流体で満たし、

ピストンを押し込もうとしてみよう、

あなたはそれを前に動かすことができないことを発見するだろう。

 

あなたが可能などのような力を使っても、あなたは何も得ないだろう。

 

管はあなたが水をかなり小さな空間に縮小するよりもっと早く破裂するだろう。

 

その時、これが空気と水の本質的な相違である。

 

後者(水)は圧縮不可能であるが、空気はあなたが望む如何なる度合いにも圧縮可能である。

 

空気は圧縮されればされるほど、密度がより高くなる。

 

このように、一定の空間を占める空気は、

 その空間を半分に圧縮または減少されると、2倍の密度になる。

 

もし10倍小さい空間に減少されると、それは10倍の密度になる。等々。

 

空気が800倍の密度になると水と同様の密度になり、

 その結果重くなるということを私は既に述べた。

 

つまり、重量は密度と同じ割合で増加する。

 

われわれが良く知る最も重い物質である金は、さらにもっとも密度が高い。*1

 

実験により、水の19倍の重さであることが発見されている。

 

それ故に、金の質量は、1フィート(30.48cm)の立方体の形では、

 同じ容積の水の質量の19倍の重さがある。

 

さて、そのような水の質量は70ポンド(70×453.6/lb=31,752g≒32kg)の重さである。

ゆえに、金の重さは70の19倍、即ち、1330ポンド(19×32Kg=608kg)である。

 

空気は800の19倍、

 即ち15,200倍小さく縮小するまで圧縮することが可能ならば、

  それは金と同様の密度および重量となるという結果になる。*2

 

しかし、空気をその度合いまで圧縮するどころかそんな可能性はまったくない。

 

あなたは、おそらく最初は難なくピストンを前に動かすだろうが、

あなたが前に推せば推すほど、いっそう抵抗が強くなる。

 

そして、あなたが10倍小さい空間に空気を減少することができる前に、

それが異常な強さでない限り、

管を破裂させるのと同じくらいの力が使われねばならない。

 

そして、そのような力はピストンを更に動かすのに必要であるばかりでなく、

その状態に空気を維持するため、同じ力が不可欠であろう。

 

というのは、力をほんのわずか緩めると、圧縮された空気はピストンを戻してしまうからだ。

 

さらに空気は圧縮されればされるほど、

 さらに激しく膨張しようとし、その自然な状態に戻ろうとする。

 

これは、私が次の手紙で取り扱うつもりの、われわれが空気のバネまたは弾性と呼ぶものである。

 

              1760年5月10日

 


編注*1:これが書かれた後で発見された金属プラチナは水よりも22倍の重さである。

編注*2:さまざまな異なった種類の気体、塩素、硫化水素、一酸化二窒素、亜硫酸、炭酸、シアン、塩素といったものは、ごく最近ファラデーにより圧力によって液体に変換された。

 

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