自然哲学の諸問題についてのドイツ王女へのオイラーの手紙

 

今や、あなたは、

 あらゆる物体が地球の中心へ一直線に、
  またその引力によりその表面に垂直に向かわされていることに気づいている。


わが地球表面における垂直線は、従って、引力の作用の方向として考えられる。

運動で物体を動かすという能力のあるあらゆるものがその名前により表現されるので、

 引力に適用される力(power)という言葉は厳密な妥当性をもつ。


よって、馬が馬車を引くことができるので、
 われわれは力の原因を馬、または川の流れ、または風であるとする。
なぜならそれらの方法により製粉機は運転されるからである。


それ故に、それが物体を下方向に向けさせるので、
 引力が力(
power)であるということは疑いないのである。


そして、われわれが荷物を運ぶときにわれわれが感じる圧力により、

 われわれはこの力の効果を存分に知覚できる。

さて、あらゆる力には、2つのものが考えられる。

第一は、それが物体に作用するまたは強制する方向、
 第二は、それが生み出す効果により見積もられるその量である。(*1)


引力の方向については、十分に知られている。


つまり、地球の中心へと物体を向かわせること、
 または、結局同じことであるが、それがわが地球表面へ垂直に作用することを、
  われわれは確信している。

それゆえに、われわれにはその量の調査が残っている。

この力は常にあらゆる物体の重さにより決定される。


そして、物体は重さに関しては大いに異なるので、
 最も重い物体はさらに最大の激しさで下へと向かわされる。


地球上の異なった場所へ運ばれた同じ物体が、
 常に同じ重さを維持するのかどうか?ということがこれまで問われてきた。


私は、蒸発により何も失わない物体ついて話す。(*2)


同じ物体が赤道の方向では地球の極の方向よりも多少重さが少なくなることは、
 疑問の余地のない実験により証明されている。

最も正確な天秤によっても、
 この相違を確かめることは不可能であることは、あなたはすぐに思い浮つくだろう。

なぜなら、
 物体内の物質の重さを決定するために使われる標準おもりが同じ変化を受けるからである。


よって、われわれと共に赤道へ移動しながら、100ポンド(約
454g×100=45.4kg)を秤にかけた
 物質は、まだ名目上100ポンドであろうが、ここよりも多少少なくなるだろう。


この変化は、下降の速度である引力の力そのものの効果により発見された。


というのは、赤道下の同じ物体は、
 高緯度ほど大きな速度で下降しないことが見出されるからである。


それ故に、地球の異なった場所へ移動することで、
 同じ物体が重さに関してほんのわずかな変化を被ることは確かである。

では、地球内でその中心を通過する穴にもどろう。

あらゆるこれらの引力が継続的に地球の中心に向かう傾向をもちながら、

 もはやなんであろうといかなる方向にも動くことができないので、

  真の中心にある物体はその引力を完全に失うに違いないことは明らかである。


さらに、物体が地球の中心でもはや引力をもたないので、
 つまり中心へ下降していくと、その引力は次第に弱まるだろう。


そして、結果、地球の内部を貫通する物体は、
 中心に近づくのに比例してその引力を失うと
われわれは結論する。


その強さが変化するばかりか、

 正反対の者(antipode)へ向かって通過する場合、全く逆になる方向も同様であるために、

  引力の強さも方向もあらゆる物体の性質による結果ではないことに

   あなたは感ずいているにちがいない。

空想で地球の中心へ旅行するので、その表面へ戻り、最も高い山の頂上へ登ろう。


たとえ物体の重さが
 地球から離れるのに比例して減少するということを信じるに足る理由があろうとも、

  物体の引力に知覚できるほどの変化がないことをわれわれは観測するだろう。


しかし、あなたは、太陽または恒星の一つに到達するまで、
 次第にわが地球から離れていく物体を想像しなければならない。


これらの星と比べてほとんど無であるため、
 そのような物体が地球へ戻ってくるに違いないと考えることはばかげているだろう。


それゆえに、地球から離れていく物体は、

 ついには全く消えるまでどんどん小さくなるという引力の減少をこうむらねばならない、

  と結論されるだろう。

しかしながら、たとえそれが地球上の引力よりも3600倍小さいといえども、(*3)

 月の距離まで移動した物体が
  まだ何らかの重さを持つであろうということを証明する理由がある。


地球上に3600ポンド(
454g×36001634Kg1.6t)の重さの物体を想像してみよう。


確かに、ここでそれを想像する能力があるものは誰もいない。


しかし、月の距離までそれを運べば、私は指一本でそれを支えることを請け負う。


つまり、そのとき、それはたったの1ポンドしかないのである。


そして、もしさらに遠くへ離れたなら、その重さはさらに小さくなるだろう。


われわれはそれ故に、

 引力が全ての物体を地球の中心へ向かわせる力であることを、

  またこの力は地球の表面で最大の力を及ぼすということを、

   そして、中心に向かい貫通しようとも、地球の表面を上へと上昇しようとも、

    それから離れるのに比例して減少することを

     われわれは確信する。


わたしはまだこのテーマについて多くを語らねばならない。

     
1760年8月30日


訳注:(*1)オイラーは、力を方向と量をもつベクトルと見なしている。

訳注:(*2)文の前後に合っていないようである。

訳注:(*3)例えとしてではあるけれども、月の引力が地球のそれの1/3600というのは小さすぎる。今日では約1/6である。

ちなみに月表面の重力加速度は1.6249(m/s2)、全表面にわたる変位は0.0253(m/s2)、地球上の日本列島の重力加速度は9.789〜9.807(m/s2)である。日本のウィキペディアを見ると、地球の重力加速度が9.78(m/s2)と書かれているが、地球上の重力加速度は場所毎に異なっている。学校で習う9.8(m/s2)も同じだが、物理定数は固定した数値ではないことに要注意だ。よって、こうした定数であるかのような書き方は明らかに間違いである。USウィキペディア、学会の発表しているデータなどをよく読んでみたらどうだろうか?あまりの認識の低さに驚く次第である。

さてこの重力加速度の測定は、弾道計算に重要な影響を与えたため戦前から盛んに計測が行われ、機密事項とされたこともあった。また、これに平行して、計測を行うための測定装置も改良が重ねられてきた。

当初の精度(小数以下)が4桁であったことに比べ、今日では12桁にまで向上している。こうした高い精度が実現したおかげで、鉱物資源の発見に重力加速度異常を利用したり(微分方程式から計算する方法は、“物理数学の考え方”(齋藤和男著、工学社)に球形金属鉱床の演習問題がありわかりやすい。)、地震観測に利用したり、と多くの分野で役立っている。

 詳しくは、名著“重力から見る地球”(藤本博巳、友田好文共著:東京大学出版会)をお勧めする。最も身近な物理定数の根幹を、歴史を紐解きながら、数式やデータを随所に取り入れ、測定技術までも丁寧に解説している。比較的薄い本でありながら、内容は今日の重力の精度並みに深い。重力測定のために世界を旅する先生方は、「重力はつまらん」といわれた師の言葉を気にしながらも、重力=物理学の面白さを生き生きと書いておられる。物理学の知識があればなおさら興味が深まり、さらに重力分野の文献へと目が行くのは必至だ。また初学者には物理学への道しるべにもなる書である。

 

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