自然哲学の諸問題についてのドイツ王女へのオイラーの手紙

 

海の干満に関して話して来たことから、

 私が採用したニュートンの仮説がデカルトのそれとは全く正反対であるということに

  あなたは気づくに違いない。


この後者(デカルト)に従うと、
 月が圧力を働かせ、さらに月の真下に位置する場所で海は沈まねばならない。


しかし、ニュートンによると、
 月は引力により作用し、さらにこれらの実際の場所において水を上昇させる。


そのとき、実験がこれらの2つの仮説のどちらを受入れられるべきかを決定するはずだ。


月が天頂にあるとき、

 水が上昇するのか、それとも下降するのかどうかを調べるために、

  大洋について行われる観測結果を調べることが必要である。


頼みとするものは、実際にこれを行うことであった。


しかし、月が一定の位置の天頂またはナディアにあるとき、

 水は高くも低くもないことが発見された。


そして月が天頂を通過した後、数時間しても、高潮は起こらなかった。


この事情から、表面的にことを実験した人々は、

 この仮説のいずれも容認されないとすぐに推論した。


さらに、
参考にされた観測結果は、
 ニュートンの仮説がそう見えるのと同様に、デカルトの仮説と相容れないのだが、

  もしニュートンの仮説が拒絶されれば、

   即ち、デカルトの仮説が必然的に採用されるに違いない

    と推測して、デカルト学派はそれを利用した。

しかし、デカルトの仮説は、月が水平線の上または下にあろうとも、

 海は12時間22分の間、常に同じ状態にあるか、

  または、その状態は常に同じである

   というこの単純な現象により覆される。


そしてその支持者は、
正反対の者(antipode)の頭上にある月が、

 それがわれわれの上にあるときと同様に、

  いかに同じ効果を生み出すことができるのか、

   を示すことは不可能である。


この目的のために、Fig2を見よう。


A
における水の状態が、月がM、つまりA点の天頂にあろうとも、

 結果としてBの正反対の天頂であるナディア(天底)、Nにあろうとも

  同じであることを実験は証明している。


そのとき、
Aの水上の月の影響は、2つの場合と同じである。


しかし、デカルトに従い、もし月が圧力により作用したなら、

 月がMにあるとき、Aの水は下降するはずだ、

  ということになるだろう。


そして、もし月が
Nにあったなら、

 Aの水が同じ圧力を受けることはできない。


引力の仮説においては、反対に、

 月の作用は、発光体(月)がMNにあろうとほとんど同じでなければならない

  ということは確かに議論の余地がない。


そしてこれは実際の観測で証明されている。


それは最重要な問題であるため、わたしはここで前の説明を繰りかえさねばならない。


月が
Mにあるとき、A点は中心Cより月に近い。

それゆえに、中心よりも強く引かれる。

A点は中心を離れ、その結果、上昇するだろう。


M
にある月はAの水を持ち上げようとする傾向がある。

では、月がMにいた後、12時間22分で到達する


N
にいる月がどのような影響を生じるのかを見てみよう。


A
点は中心CよりNの月からさらに離れているので、

 それはもっと弱く引かれるだろう。


中心
CA点よりもNに向かってより大きな速度で前へ進むだろう。

従って距離ACはより大きくなるだろう。


それ故に、
A点は中心Cからさらに離れるだろう。

しかし、地球の中心からの距離がさらに離れるということは、
 上昇することであり、
その結果、Nにある月はA点を上げさせ、

  即ち、たとえ月がMに有ったとしても、Aの水を上昇しようとする傾向を持つのである。


しかし、ここで実験は非常に恐ろしい反論をもたらす。


つまり、
MまたはNに月があっても、

 そのときAの水の上昇が最大になっているわけではないということである。


これは相当の時間が経つまで生じない。


ゆえに、あるものはこの説明を完全に排除してきた。


しかし、それらの結論が非常に望ましくないことを引き起こすことを

 あなたは容易に知るだろう。


月が
MまたはNにあるとき、Aの水がその最大の高さになるとは、わたしは言わなかった。


わたしは、月の力は水を引き上げる傾向があると言ったにすぎない。

しかしその量が増加しない限り、Aの水は上昇しない。


即ち、
その増加は、非常に離れた水の中の、ある部分からの水の流入によってのみ生みだされる。

それゆえに、相当の時間が十分な水量を蓄積するために必要とされる。


A
の高潮は、月がMまたはNを通過した後、ある時間の間は起こるはずがない、

 ということは非常に自然に思われる。


それゆえ、この観察結果が、われわれの仮説を覆すのは到底無理であり、

 即ち、それは強く堅固にするものである。


それが
Aで高くなっている間、

水が非常に遠くの場所、即ち水が低くなっているはずの場所から、
 こちらへ流れねばならないので、

  海を持ち上げる傾向を持つこの力が、その最大の上昇より先にあるにちがいないこと、

   否、かなりの時間が介在しなければならないことは疑う余地がない。


もし水が真っ直ぐに通過しなければならないか、または流れの一方を妨げられるならば、

 高潮はさらに妨げられるだろう。


そして、もし、大洋の中で、
月がMまたはNを通過した2時間後にAで高潮となるならば、

 狭く、且つ抑制された海の中で3時間以上かけて、その高さはなくなるだろう。


そしてこれは完全に日々の観測結果に一致する。


     1760年10月11日

 

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