自然哲学の諸問題についてのドイツ王女へのオイラーの手紙

 

あなたが容易に信じるであろうニュートンの仮説は、

 正当な理由があって、最初は大いに世間の評判となった。


これまでのところ誰もそれほどすばらしい幸運な発見に出会うことはなかったので、

 ついには科学のあらゆる分野に明るい光をもたらした。


それは、あなたが知っている独特ないくつかの名前で表現されてきた。

ゆえにそれはしばしば話題になっている。
それは万有引力の仮説と呼ばれてきた。


つまり、ニュートンは、地球ばかりでなく全ての天体は、一般的に、

 −重さや引力gravity:重力)のそれと同じ力でそれら(物体)を取り囲み、
  引き付けるという−
この特性が授けられている、

   ということを支持した。


その結果、引力
gravitation:重力)という言葉がもたらされた。


しかしながら、この力は全く見えない。


つまり、われわれは物体に作用し、地球に向かわされ、
 さらにわずかに天体にも向かわされるものが
  (目に見えるものとして)何も無いことを知るのである。

原因をはっきりと認めることができないが、
 鉄と鋼が引き合う天然磁石は、なにか似たような現象を表わしている。


例え、
天然磁石や鉄の細孔を貫通する非常に薄く広がる物質により、
 これが生み出される
ということが今や確かであろうとも、

  しかしながら、天然磁石が鉄を引き付け、
   さらに鉄がそれによって引き付けられることは、
    真の原因を除外するものではないと断言されるだろう。


その上、同様に、
地球は近くにある全ての物体を引き付ける、
 否、非常に離れたものをも引き付ける、と断言されるかもしれない。


そして、われわれは物体の重さまたは引力を、
 
月にさえも作用する地球の引力gravity:重力)の影響として考えても良い。


重ねて言うが、太陽と全惑星は、
 全ての物体に及ぶ引力(
attractionという同じ力を授けられている。


この話法に従うと、われわれは、太陽が惑星を引き付け
 木星と土星はそれらの個々の衛星を引きつけている、といえる。


故に、ニュートンの仮説は同様に引力(
attractionの仮説と命名された。


月に非常に近い物体は同様に
 引力(
gravity:重力)と同じ力でそれへ向かわされることは疑いようがないので、
  月もまた隣り合う物体を引き付けると断言されるだろう。

たとえ疑いなく非常に弱いに違いないとしても、

 われわれは現存する月への地球の引力(attractionを見てきたように、

  この月の引力(attractionがはるか地球にまで広がっているはずである
   ということを想像するのは自然なことである。


いまや、同じ哲学者は、

 私が後に語る機会を利用するであろう海水の干満(満ち引き)は、

  月の引力(attractionを原因とする、ということを証明する事により、

   疑惑の範囲を超えてこれを認めた。


それ故に、木星と土星が相互にそれらの個々の衛星を引っ張っていること、

 さらにこの引きつける力は非常に弱いけれども、
  太陽自身が惑星の引力(
attractionの対象になっていること

   はもはや疑い得ない。

太陽が惑星を引き付けるばかりか、
 相互に各惑星に引かれる、
  否、全ての惑星は互いに引き付けあう力を及ぼしあっている
   ということは、正当な理由があって支持されている、

    この万有引力の仮説の起源である。


そのとき、たとえ、
 それらの力が太陽の引力(
attractionに比べてほとんど微力であるにしても、

  地球は太陽ばかりでなく、他の惑星からも引きつけられる。

太陽によって引かれるばかりか、他の惑星からも引かれる惑星の運動が、

 どんなに小さな度合いであろうと、

  それが太陽のみによりこれまで引かれてきたということとは

   多少異なっているに違いないということに、

    あなたは容易に理解するだろう。

その結果、他の惑星の引力はその運動のちょっとした撹乱の原因となっているに違いない。


今や、さらにこれらの撹乱は実験により確認される。


そして、もう敢えてその真実を疑うものはいないので、

 これは最高の確実性をもって万有引力の仮説をもたらした。

同様に彗星もこの法則の対象となることを、私は認めねばならない。


即ち、それらは第一に、その作用がその運動を規則正しくする太陽から引かれるが、

 特にそれらが大して離れていないとき、


それらは同様に全惑星の引きつける力の影響を受ける。


後にわれわれが知るように、

 全天体の引力(attractionは距離に比例して減少し、
  近傍ほど比例して増加することは、

   一般的な法則である。


次に、ほうき星も同様に、

 他の物体がそれらに引きつけられることによる力を授けられ、

  さらに、それらがより近くに接近するほどよりいっそう目立つ。

   それ故に、ほうき星が惑星のより近くを通過するとき、

    それは引きつける力によりその惑星の運動を乱すかもしれない。


さらに、それ自身も同様に惑星の引力により乱されるだろう。


これらの結論は実際の観測により真実であることが確かめられている。

ほうき星の運動が、
 それがたまたま通過する近くの惑星の引力(
attractionにより乱されてきたこと
  を証明するために、

   実例が提示されるだろう。


つまり、地球と他の惑星の運動が既にほうき星の引力(
attractionからあるかく乱を受けた。

太陽と同じく物体である恒星は、引きつける力を疑いなく同様に授けられている。


しかし、それらの莫大な距離が、
 それからのいかなるわれわれの知覚効果をも感じることを妨げる。

 

     1760年9月5日

 

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