自然哲学の諸問題についてのドイツ王女へのオイラーの手紙

  私は、空気は水より800倍も希薄な流体であると述べた。

 

水は、蒸気に変えなくとも、

何回でも巨大に空間に膨張し、結果として何倍もさらに希薄になることが可能なので、

われわれが呼吸する空気と同じ整合性がある。

 

しかし、わたしが前の手紙で証明したように、

空気は、水が持っていない、

より小さな空間に圧縮され、且つ比例して凝縮される、

という特徴を有する。

 

そして、われわれはまさしく驚くべきもう一つの特徴を空気に発見する。

それは、より巨大な空間に膨張し、さらにより薄くされるという能力である。

この作業は、空気の希薄化と呼ばれる。

 

あなたは、前と同様に、管ABCD(Fig.3)を手に取りさえすればよい。

 

ACの底に、小さな穴Oを開けよう。

それで、EFまでピストンを押し込むことにより、空気は圧縮されることなく穴から逃れる。

 

いま空洞ACEFを占める空気は、その自然な状態にあるだろう。

Oをぴったり塞いでみよう。

ピストンを引き戻す場合、空気は徐々により大きな空間に膨張するだろう。

 

故に、ピストンがG点に戻されると、

空間CFの2倍の空間であるCG、空間ACEFに含まれる同じ空気が、

2倍の大きさの空間を満たすだろう。

 

それは、当然、密度としては半分に、

同じことであるが、2倍の希薄さであるに過ぎないだろう。

 

もし、あなたがピストンをH点、空間CFの4倍である空間CHに引き戻したなら、

そのとき空気は4倍の空間に膨張させられので、

空気は最初の4倍の希薄さとなるだろう。

 

 

そして、空間が1000倍になるまでピストンが引っ張られると、

空気はさらに空間のいたるところに膨張し、

その結果、1000倍の希薄さとなる。

 

さらに、これこそが、空気が水とは本質的に異なる点なのである。

 

というのは、もし空洞ACEFが水で満たされていたなら、

あなたがピストンを引っ張るという目的は達せられないだろう。

 

水は最初の同じ空間を占有し続け、そして残りの部分は空のままとなるだろう。

 

それゆえに、われわれは、

空気がそれ自身をますます膨張するという本質的な力もっていることを知る。

 

さらに、それが圧縮されるときばかりか、

希薄化されるときもその力を発揮する。

 

空気が圧縮とか希薄化という何れの状態にあろうとも、

空気は絶え間なくより大きな空間に膨張しようとし、

それが障害物に会わない限り、膨張し続ける。

 

この特徴は、空気の弾性と呼ばれる。

 

そしてこの伸縮力が密度に比例することは、まもなく私が記述する実験により証明される。

−いいかえれば、空気は圧縮されればされるほど、さらに自身で膨張しようとする。

 

そして、希薄になればなるほど、これらの試みはより弱くなる。

 

それはおそらく証明されるだろう。

 

より大きな空間を占有するため、

継続的に膨張する能力を授けられているけれども、

なぜ、今私の部屋内の空気はドアから逃げられないのか?

 

答えは明らかである。

 

これはいつも決まって起きているのだが、

外部の空気はそれ自身を均等に膨張しようとはしないということである。

 

しかし、外へ逃げようとするこの部屋の空気の試みと

押し入ろうとする外の空気の試みは等しいのであり、

それらは互いに均衡しているので静止状態のままである。

 

外部の空気が偶然により大きな密度、つまりより大きな弾性を手に入れると、

それは一部分から部屋の中にむりやり押し入るだろう。

 

するとそこで、圧縮された空気は同様により大きな弾性を得るだろう。

 

従って、この流れは、内部の空気の弾性が外部の空気の弾性と等しくなるまで続くだろう。

 

そして、部屋の空気は急にいっそう密度が上がり、

外部の空気の弾性よりもより大きくなるはずで、

それは出口へ向かわされる。

 

そして、それが外の空気と等しくなるまで、

その密度は徐々に減っていき、弾性もまた減少するだろう。

 

そのとき、この流れは終わり、部屋の空気は外部の空気と平衡状態になる。

 

さらに、それがまわりを取り囲む空気と同じ弾性を持つ場合にのみ、

自由な空気は静止状態となる。

 

そして、ある区域の弾性が

隣接するものよりも多少弾力的になるやいなや、

平衡はもはや存続しえない。

 

しかし、もし弾性がより大きいと、

空気は自身で膨張し、さらにそれがより小さな空間へと移動する。

 

そしてこの空気の動きが、結果、風となる。

 

その結果、空気の弾性が、

同じ場所であってもあるときはより大きく、

またあるときはより小さいということが、起こる。

 

そして、この変化は、特別に考慮すべき表示、気圧計により表わされる。

 

凝縮されればされるほど、

より大きな膨張または弾性の力を得る、

ということをあなたに思いだしていただきたいので、

わたしは、空気の凝縮と希薄化というこれらの性質を今はこれまでに限定する。

 

しかも、反対に希薄化されればされるほど、この性質はより失われていく。

 

実験哲学者は、

空気を希薄化するためのある機械を、

また空気を凝縮するための別の機械を発明した。

 

前者は空気ポンプと呼ばれ、後者は凝縮器と呼ばれる。

 

これらの機械は、

あなたが既によくご存知の、

多くの好奇心をそそる実験を行うのに役立つ。

 

しかしながら、私はそれらの幾つかを要約するという自由を自分に残しておく。

 

なぜなら、それらは、空気の性質と特徴を明瞭にし、説明するために必須であるからだ。

 

即ち、それらが動物の保存や植物の生産に強力に貢献するので、

それらの正しい考え方を形成することの重要性をわれわれにしきりに迫るのである。

 

              1760年5月14日

 

 

  "Go to Menu "                                        "Next  "