Paper and Note (論文、ノート:翻訳)



物理学者
ポール・ランジュバン氏(1872–1946)
1.ポール・ランジュバンとその業績
   −ブラウン運動とニュートンの第二法則
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<概要>
 物理学者ポール・ランジュバンの名は一般的にはどうかわかりませんが、理工学分野で優れた業績をいくつも挙げた人であり、今日の技術の分野でもその名は残っています。さらに、相対性理論の真意を理解する数少ない学者として、アインシュタインからも厚い信頼を得ていた物理学者ポール・ランジュバンは相対性理論の普及にも多大な功績を残しました。そのような彼のシンプルにしてスマートな論文”ブラウン運動とニュートンの第二法則”のご紹介です。
 本稿では、この論文に加え、ランジュバン氏の波乱の生涯にも焦点を当ててみました。


物理学者、数学者
ゲオルグ・ジーモン・オーム氏(1789-1854)

2.G.S.オーム著”ガルバーニ電気回路の数学的研究”
   −オームの法則発見への道
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<概要>
 中学生のときに習った”オームの法則”。読者の方はそれにどのような印象をお持ちでしょうか?受験に必ず出題されるので、問題の解き方を仕方なく覚えた、といった人がほとんどでしょうか・・・電圧V、電流I、抵抗Rの3つを利用して問題を解く場面は、学習塾においても毎年繰り返されています。中学生からは”何のためになるのか?”と良く聞かれます。私どものように理工学系に進み、企業で電子技術に何十年も触れてきたものにとっては毎日の呼吸と同じくらい重要且つごく普通の法則なのですが、子供たちに簡単に説明することはなかなか難しいものです。

 さて、このオームの法則は初等教育で教えられますから、ほぼ万人に知られているといっても過言ではありません。皆が知る”オーム”という名称ですが、19世紀当時は彼も大変な有名人だったのでしょうか?
 残念ながら当時は、まだ数学を駆使して自然現象を記述するということが普通に行われていませんでした。オーム氏が結論として見出した V=I×R という簡単なこの式ですが、そこに至るまではオーム氏の難解な数学の洗礼を受けねばならず、当時の学会の反応は冷ややかで受け入れてもらえなかったのです。

 話は前後しますが、今日では簡単にアルカリ電池や直流電源装置があるおかげで、だれでもいつでも簡単に実験できます。しかし、その当時は安定した電圧、電流を出し続けることができる電源、電池というものが無かったのです。これが一番の基本です。やはり中学で習うので多くの人が知る”ボルタの電池”は、未だ改良の途中にあり、実験に使える代物ではありませんでした。このボルタの電池について研究をしたのもオーム氏でした。

 かくして、多くの困難や偏見にもめげることなく、自らの信じる道を邁進したオーム氏の努力の結晶がこの論文です。正に信念の人です。

−目 次−
1.編集者序・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P1
2.著者序文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P2
3.本 文
 
3つの法則を基本とした研究論文
 第一の場合 同一材料と同一寸法の導体の回路    ・・・P3

 第二の場合
 −任意の数の異なる大きさと材料による多くの断面で構成された回路・・P4
 
−全く同じ材料であるが、異なる寸法で構成された回路      ・・P5,6
 −材料は異なるが、同じ横断面を持つ2つの部分で作られた回路導体
 −同じ寸法でも同じ材料でもない2つの部分で作られた回路導体.−
 前述(の内容)から推論可能な一般論.
 
回路の場所を問わないポテンシャルの決定 ・・・・・・・・・・・・P6,7
 
電流の法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P8,9
 
ボルタの回路・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P10
 
電流は起電力の力または抵抗の変化と共に変わる・・・・・・・・・・P11
 
熱電気回路と水電気回路、この二者の区別.・・・・・・・・・・・・P12
  バッテリの起電力と抵抗は(直列の)電極の数に依存する
 
ガルバノメータの動作・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P13
 
分割された、または派生的な回路・・・・・・・・・・・・・・・・・P14
 
電流の分解力について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・P15,16
                                  (END)

 
物理学者、数学者
ゲオルグ・ジーモン・オーム氏(1789-1854)

3.G.S.オーム著”ボルタの電気回路”(New!)”(←ここをクリック)

<概要>
 本論文は、”ボルタの電池+伝導体(金属)または非伝導体(非金属)”からなる“ボルタの電気回路“において、電流や電圧とはなにか、またいかにしてそれらが発生し、流れるのかを、オーム氏が同回路の観測のもとに仮定を立てて作り上げた数学的仮説です。

 
今日、電池は原子価を基礎とした化学式によって説明されます。それは中学の理科で習うので、日本でも多くの人が知っているでしょう。しかし、オーム氏が生きた時代には、まだ原子や分子という考え方がようやく出てきたばかりであり、まだ仮説の段階でした。

 
では、電子が発見される前、自然哲学者(当時の科学者の呼称)は一般的にどのような考え方をもっていたのでしょうか? 当時19世紀は、ディビー卿(ファラデーの師)が提唱した電気化学的二元論が主流でした。それは大まかに言うと、あらゆる物体(物質)は+と−の電気的な結合により構成されている、とするものです。オーム氏の考え方も基本的にその上に立っています。

 
オーム氏はこの電気化学的二元論の上に立って電流を説明しようとします。すなわち、電流が一定となる定常状態になるまで、物質(伝導体)内部の化学変化により、+または−の電気が移動して電流に変化が生じ、その総和が電圧として検電器に現れる、という仮説です。この解説は、概念的であるがために非常にわかりにくい内容となっており、訳出には大いに苦労しました。(各所に図を挿入しておきましたがまだ十分とは言えないでしょう。)

 
オーム氏の研究の一方で、19世紀初頭にフーリエが発表した、画期的な解析手法である”熱方程式”と”フーリエ解析”が科学界に与えた影響は大きいものでした。オーム氏も例外なく、この影響を大きく受けています。つまり、オーム氏自らも、電流の流れ(電流の拡散)を熱の拡散に見立てているのです。

 
これについては、オーム氏著“ガルバーニ電気回路の数学的研究”(既に訳出済)の中で、マックスウェルが次のように述べています。

[ “電気と熱の間の類似性から(結論を)誤って導いたオームは、ポテンシャルが高くなった場合に、物体は、あたかも電気(電流)がその中に圧縮されたかのように、その物質のいたるところに電気を通すようになる、
という見解に至り、そして、間違った考え方により、こうして、長い電線を通る電気の伝導の真の法則を表わすためにフーリエの方程式を使用する結果となった。かなり前から、これらの方程式の妥当性に関する真の根拠はずっと疑われてきたのだった。“
−電気学と磁気学.マックスウェル.1881年.1巻422ページ ]

 
オーム氏は観察により、伝導体に電池を接続したとき、そこに電流が流れ、電圧が発生するという現象を数学的に説明しようとしました。しかし、その労は、「電気と熱の間の類似性から結論を誤って導」き、「間違った考え方によりフーリエの方程式を使用する結果となっ」てしまいました。

 しかし、電気を伝達するものと考え、一定の断面(ディスク)について流入量と流出量を検討する(連続、保存の問題)など、今日の電磁気学に通じる点もあります。

 概念的でわかりにくい箇所も多々出てきますが、当時の考え方を知る意味で重要であるばかりでなく、読み進めながら、専門家は別として、一般読者が自力で古典的電子論と量子論的電子論を再確認することも大事ではないでしょうか。

 なぜなら、インターネットで電流について検索すると、必ずウィキペディア(日本版)の内容が出てくるからです。その内容は古典論のみに偏っている上、電流が瞬時に流れる、つまり電子が高速で移動する理由がまったく説明されていません。

 細かいことを言えば、古典論限定 ですが、金属中の電子は陽イオンと衝突を繰り返しながら進むのであり、この平均をドリフト速度と呼びます。それは電場、電流密度、自由電子の密度(物質により異なる)から計算されます。
 例えば、銅線の場合を計算すると、おおよそですが、

  電場が0.01(V/m)では約0.43(cm/s)=4.3(mm/s):実験室レベルの弱電場
  電場が1(V/m)では約43(cm/s):電池レベル
  電場が100(V/m)では約43(m/s):家庭の電源レベル
  電場が6600(V/m)では約2.8(km/s):街中の送電線(3相交流)の電圧レベル

となり、ウィキペディアに記載されている[0.073mm/s](2015/12現在)は、日常レベルでの説明からは程遠い値となります。
(尚、電子、電流の古典論と量子論の違いは、別の内容で記載する予定。)

 さて話を元に戻しますと、そうなってしまう理由は当然で、電場の作用だけで電子の運動を説明することは不可能であり、量子力学からのアプローチ 無しには説明できないからです。

 しかし、残念ながら、こうしたものが世間に流布してしまうのが現実です。オイラーの記事でも指摘しましたが、どんなことも吟味が必要です。
以上のことを念頭において、結果はともかく、未知のものに果敢に挑戦したオーム氏の論文を読んでいただければと思います。

−目 次−
A.電気の拡散の総合的観測          1〜14
B.検電現象               15〜23
C.電流という現象            24〜29
ガルバーニ回路の化学的なパワーについて   30〜40