Georg Simon Ohm 's 1827 paper

2.著者序文

 この機会に、わたしは一般的に電気学の特殊な分野としてのガルバーニ電気の理論を公に表わす。

  そして、もしこの最初の試みが、それが私に負担した犠牲にいくらかでも報いるならば、時間、意向、手段が許す限り、私は全体の中の前述の部分をさらにうまくまとめるだろう。


 これまで私が置かれてきた環境は、目新しいものの追及にむけて私を励ますのにも、また、全範囲に渡って、同じ研究分野に関する業績を知ることを私に可能にするのにも適してはいなかった。

 それゆえに、私は、最初の試みのために、ほとんど競合が心配されることのない部分を選択した。


 好意的な読者が、送り出された対象への(私と)同じ愛着をもってこの仕事を受け取ることを祈るものである!
                                       著者

   ベルリンにて、1827年5月1日


3.本 文

              ガルバーニ電気回路の数学的研究

                      −序−

  この研究論文の目的は、2ないしそれ以上の物体の相互接触により生み出され、ガルバーニック(ガルバーニ電気の)と呼ばれてきた、これらの電気的な現象の理論的根拠を、主に実験により得られたいくつかの原理から厳密に推論することにある。 

もしそれによって、さまざまな事実が知への調和(理性的統一)として示されるなら、その目的は遂げられるのである。

最も簡単な調査から始めるため、私は、手始めに発生させた電気(電流)が1次元のみで伝わる場合に限定した。

それらは、いわば、より大きな(学問的)構造のための骨格を構成し、正にその一部、つまり自然哲学の基礎から得られるであろうより厳密な知識を含むのであり、さらに、その使いやすさからより厳密な形式で与えられるであろう。

この特別な目的を達成するため、また同時にこのテーマ自体への導入として、私は、凝縮された数学的研究の先駆者として、より自由ではあるが、それ故にこそ一貫性のある、この過程とその結果の全体図を与えるのである。

3つの法則を基本とした研究論文

第一は、全く同一の(材料からなる)物体内の電気の分布のモード
第二は、周囲を取り巻く大気中の電気の分散のモード
第三は、2つの異種の物体の接触部分における電気の出現のモード
 
を表わす3つの法則が、全研究論文の基礎をなし、同時に完全に立証されており、争う余地の無いすべてものを含む。

 後の2つの法則は純粋な実験的法則であるが、第一の法則は、その性質から少なくとも部分的には理論上のものである。

 この最初の法則に関して、
わたしは、1粒子からなる電気の伝達が、直接的に、ある(粒子)からその隣の(粒子)へと発生する、という仮説から始めた。

それゆえに、大きく離れた場合、その粒子から他(の粒子)への直接的な変化は起きない。


一方、正確に同じ環境下における、2つの隣接する粒子間の変化の大きさは、わたしはそれらの温度の違いに比例するからであると推測する。

(訳注)オーム氏はこの数行で電気の発生とその移動を近接作用として捕らえている。それらを遠隔作用として捕らえる人々もいた時代に、この点は重要な認識である。

 大気中の電気の分散に関して、
一定の時間、空気で囲まれた物体内では、電気の損失は、電気の力と大気の性質に依存する係数に比例する、というクーロンによる実験から推論される法則を、私は支持してきた。

クーロンが実験を行った環境と、今日、電気の伝達に関して知られているそれらとの簡単な比較が
たとえ、ガルバーニの現象におけるそれを示したとしても、大気の影響は概して無視されるだろう。

クーロンの実験では、例えば、物体の表面へと運ばれる電気は大気内の拡散過程における、その完全なる膨張に関連づけられた。


一方、ガルバーニ電気の回路内では、電気は物体の中をほぼ定常的に流れるのだが、その結果、微小部分は空気と相互作用状態になることが可能である。

それ故に、拡散はまったく取るに足りないものとなる。


周囲環境の性質から推論されるこの結果は、実験により確認される。


そこに、第二の法則がめったに考慮されることがない、という理由がある。


電気が2つの異なった物体の接触部分に現われるというモード、または、これらの物体の起電力を私は次のように表現した。

  異なる物体が互いに接触するとき
、それらは同じ ポテンシャル(編注1)の差分を接触点で一定に保持する。


これらの3つの非常に重要な見解の助けをもってすれば、提示されるいかなる種類や形の物体内の電気の伝達のための条件も定められるだろう。

このようにして得られた微分方程式の形式と取り扱い方は、フーリエとポアソンによって熱の拡散に与えられるそれらによく似ている。


即ち、たとえ、他の理由が無かろうとも、ゆるぎない判断をもって、これらの自然現象の間には親密な関係が存在する、という結論を導いてよい。

そしてこの類似性は、このテーマを追求するにつれて増大するのである。


[ “電気と熱の間の類似性から(結論を)誤って導いたオームは、ポテンシャルが高くなった場合に、物体は、あたかも電気がその中に圧縮されたかのように、その物質のいたるところに電気を通すようになる、という見解に至り、さらに、間違った考え方により、こうして長い電線を通る電気の伝導の真の法則を表わすためにフーリエの方程式を使用する結果となった。かなり前から、これらの方程式の妥当性に関する真の根拠はずっと疑われてきたのだった。“
−電気学と磁気学.マックスウェル.1881年.1巻422ページ ]

(編注1)オームの言葉は“Spannung(ドイツ語では”電圧“の意)”であった。−検電器の力.

これらの数学的研究は最も困難な類のものであり、それゆえ、徐々にだが、しぶしぶながらも受け入れてもらえるだろう。

こうして、その特異な性質の結果、電気の伝達または搬送に関する重要な部分において、これらの困難がほぼすっかり消失する、という幸運な機会に恵まれる。


公衆の面前にこの部分を据えることは、この研究論文の目的であり、それ故に、変位を明らかにすることが必要だったように余りにも多くの複雑な場合のみが認められてきた。


通常、ガルバーニの装置に与えられた特性と形式は、1次元においてのみ、電気の伝達に有利に働く。

そして、ガルバーニ電気の源が作用する不変性と結合したその拡散速度が、ほとんどの部分に対し、時間により変化しない性質をもつガルバーニの現象による仮説の原因である。


しかし、ガルバーニの現象がよく支配されるこれらの2つの状態、即ち、1次元での電気的な状態の変化と時間の独立性こそが、この研究が簡潔に伝えている、まさにその理由である。

 
またそれは、この研究が自然哲学のどの分野でも超えられず、さらに、これまでそれが相変わらず、ほぼ完全に排除されてきた物理学の新しい分野を占有するにあたり、論争の余地無く、確実に且つ完全に数学と適合する−という正にその理由なのである。
 

回路の流体部分が思考を複雑にする化学的な変化をもたらす。

ガルバーニ回路のある部分−一般的には流体−でよく起きる化学的変化が、
その本来の単純さから生じる多くの結果をじゃまし、
さらに、それらが起こす混乱によって
その現象の独特の進行過程のほとんどを隠してしまう。
しばしば矛盾した状態になりながらも、
それらは、多くの見かけの法則はずれをもたらすこの現象の例外的な変化を原因とする。

もっもこの言葉の意味がそれ自身、自然と矛盾しないかぎりにおいてだが。

[ ドゥ・・リーブが30年後に書いている。

“固体から流体への、または流体から固体への電流の通過という事実だけによる特殊な抵抗がある。
この抵抗を流路抵抗と呼ぶ。

電気の流れが流体を通過している間、それは常に発生する。
つまり、回路にこの流体を入れるためには、電極と呼ばれる導体が必然的に使用されねばならない。

固体から流体、または流体から固体へと通過するために生じるこの抵抗は、電流の分解作用により、
それらがこの電流を伝達している流体に接触している電極の表面に必然的に起こる、
電気−化学現象の結果である。“

−電気学の論文.ドゥ・ラ・リーブ 1856年 2巻.73ページ]

訳注)ドゥ・ラ・リーブ(Auguste Arthur de la Rive 1801–1873)はスイスの物理学者。50年以上に渡り科学界に貢献した。ファラデーとも深い親交があった。

私は、活動が化学的な作用で乱されることにより、化学的な変化を被る部分が無い、そのようなガルバーニ電気の回路の考えを厳密に切り分け、さらに、後者には付録の別の場所を当てておいた。

全体を構成する2つの部分のこの完全な分離と、(思ったとおり)後者の威厳の少ない立場は、
次の状況に十分な説明を見出すだろう。

永続的で実りの多いものであると自己主張する理論は、そのすべての結論において、観察と実験に従わばならない。

上述の部分の最初に関してだが、これは、これまでの他者の実験により部分的に、また私自身の行ったいくつかの実験により部分的に十分に確認されている、と私には思われる。

私は第一のものによりここで明らかにされた原理を知り、続いてそれにすっかり時間をささげてきた。
そのようなことは第二の部分に関しては該当しない。

この場合、もっと正確な実験的検証がさらに要求されるのだが、私には時間も資金(手段)も無い。

それゆえに、それは、しばらくはどこかの隅にやっておくとする。

もしそれがその問題に価値があると明らかになれば、それは取り上げられた後、より手厚く取り扱われ、さらに仕上げられるだろう。


(続く)
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