8.1 実験回路1,2の飛距離の差について
飛距離のデータをまとめた表7.2から、実験回路1に対し実験回路2ではコイル3で約3[cm]、コイル1,2で約6〜8[cm]飛距離が伸びている。
これはなぜだろうか?
回路の唯一の違いはスイッチとトライアックである。
トライアックにはオン抵抗というものがあり、規格表から16[mΩ]max.となっていることはすでに述べた。しかし、スイッチにも抵抗がある。接触したときに全くの0[Ω]になっているわけではないのである。それは接触抵抗と呼ばれる。同種のロッカースイッチ(250[V]16[A])では、メーカーから100mΩ以下
(DC6〜8V、1A電圧降下法(注1))とデータシートに記載されている。半分の50[mΩ]と考えても、トライアックのオン抵抗の約3倍もある。したがって、飛距離の差の原因は、トライアックのオン抵抗の方がスイッチの接触抵抗よりも小さいことによる。
尚、今回のように70[A]もの電流を瞬間的に流した場合、スイッチ接点の損耗はかなり激しくなるだろう。最初はトライアックのオン抵抗よりも小さかったとしても、数十回も繰り返せば、接点クリーニングが行われない限り、接触抵抗は容易に100[mΩ]を超えると考えられる。これが実験回路2の方が飛距離が出た理由である。
さて、今回は渦巻状コイルを使わなかったが、これはかなりの低インダクタンス、低直流抵抗になるので電流制限抵抗を入れるなど、ピーク電流に十分注意した回路処理をする必要があるだろう。尤も、それにより飛距離が落ちてしまうという結果は目に見えている。
(注1)他に電圧計−電流計法がありこれによれば100[A]でも1000[A]でも測定できるが、残念ながらデータは無い。
8.2
衝突時間について
EXCELを使用して、コイルごとに、理論的なコイルに発生する磁荷m1、コインに発生する磁荷m2を計算し、反発力fを求めた。それが表8.2aである。
表8.2a 反発力の理論値
この反発力に対して飛距離と磁場と磁場が押し合う衝突時間を4.5の力積の式からグラフ化したものが次の図8.2a コイル1、図8.2b コイル2、図8.2c コイル3である。
図8.2a コイル1
コイル1では飛距離の平均値117.6[cm]より衝突時間は約260[ms]と考えられる。
図8.2b コイル2
コイル2では飛距離の平均値112.6[cm]より衝突時間は約260[ms]と考えられる。
図8.2c コイル3
コイル3では飛距離の平均値40[cm]より衝突時間は約950[ms]と考えられる。
コイル3の衝突時間は大きすぎる嫌いがあるので一旦保留とし、コイル1,2の値を採用する。これらの衝突時間は約260[ms]とほぼ一定である。
だが、この値については、もっと短いのではないかという疑問をぬぐえない。そこで次の“8.3 1円玉の渦電流について”で検討してみる。
8.3 1円玉の渦電流について
EXCELによる計算から、1円玉に発生する渦電流Icの予測値を表8.3に示す。
表8.3 渦電流Icの予測値
表8.3の最後のIc値からIc=55〜92[mA]の電流が流れると推測される。
“7.4 1円玉の渦電流の計測”から最初に発生する渦電流の測定値はIc = 0.4[A](約1.5[ms]間)であった。約4倍の差があるのだが、100[mA]オーダーで見れば、互いに近いところにあるともいえる。
この場合、コイルと1円玉を固定しているので最大電流が見られたが、実際にコインが飛ぶときは、電流が最大となる前に飛び出すのではないかと思われる。その場合、電流値は0.4[A]よりも小さくなるだろう。
100〜200[mA]の値が計測されればかなり予測値と測定値が近くなる。
よって、今後の課題として、コインが飛んでも外れず、軽量な電線を取り付けて、コインが飛んだときの電流値を測定する装置を考えるたほうがよいだろう。
8.4 効率について
(1)コンデンサの電気エネルギー
Ec=3.6[J]
(2)コイルの電磁エネルギーEL
コイル電磁エネルギーELはコンデンサの電気エネルギーEcと同じとしたが、コイルの直流抵抗分による電力消費を考慮するとELは少々変わってくる。
コイルの直流抵抗分Rcoilは(長さL=10[m]、直径0.4[mm])
(テスターの計測値は1.4Ωとなかなか正確である。)
コイルへの印加電圧、電流はsin波の正の半周期分であり、その時間は約0.3msである。
よって消費電力WLは
WL=1.4[Ω]×(66.9[A]×2/π)2=2542[W]
1[W]=1[J/s]より
PL=2542×0.3×10−3=0.763[J]
EL=3.6[J]−PL=3.6−0.763=2.873[J]
(3)コインに発生する電磁エネルギーEcoinは
Φ=LIより、L=Φ/I
(4)コインが1[m]飛んだ時の運動エネルギーは位置エネルギーEkに等しいので
以上で計算した値をエネルギー遷移図に入れたものが、図8.4 エネルギー遷移図(数値化)である。
最終的には
電気エネルギー100% → コインの電磁エネルギー+運動エネルギー0.3%
となり、渦電流を発生させ、必要な運動エネルギーを発生させるために役99.7%が費やされている。実に効率の悪いエネルギー変換装置であることがわかる。
8.6 感想、その他
今回の実験は、理論的な予測と結果の均衡点をうまく見出すことができ、大変興味深いものとなった。理論計算では教科書にあるさまざまな定理からの証明を省いたので、厳密さを欠いたかも知れないが、その分結論までがすっきりとしたといえよう。そのおかげで、物理を学んだ高校3年生程度の知識でもかなりの数式を計算できるし、その内容もさらに深めることが出来るだろう。
ただ、飛距離については予測と計算結果を近づけることは出来たが、それによって、コイルへの電圧印加時間とコインの起電力の発生時間に関する理論値と測定値が大きく異なってしまったことは今後への課題を残したといえる。
尚、1円玉の磁場の計算方法は再検討した方がよいかもしれない。また、運動方程式の部分でも、空気の抵抗を考慮に入れた計算式を使ってみるのも面白いだろう。最後に、今回はアルミの1円玉のみであったが、エクセルを利用すれば、コインの材料を替えたときの磁場や反発力の計算式を使って飛距離を予測してみることも可能である。次回への課題である。
尚、都合により、使用した回路や所有の測定器については詳細を省かせていただいた。
最後までご精読いただきありがとうございました。
2015年7月末.